Staff Column
クラフトビールの醸造家になる-Part10- 醸造免許取得までのあれこれ

今回は、パート3で触れた税務署とのやりとりについての続きを書きます。
4月に税務署を訪ねてから既に数ヶ月が経過していましたが、改装工事の進行が忙しくて、免許申請用の書類にほとんど着手していませんでした。
免許申請してから許可が出るまで平均4ヶ月はかかると聞いていましたが、実際はもっとかかります。
新規で申請の場合、おおよそ8ヶ月程度が一般的だそうで。
それを逆算すると、開店予定の何ヶ月前に申請書類を出してないといけないのか……軽く計算すると遅くても9月ごろには出してないとかなり先送りになる、とハッと気がついたのが夏真っ盛りの頃。
さすがにまずい……。
当時、お酒の担当官にヒヤリングしてまとめた要点を以下に記します。

過去の資料を引っ張り出して見てみましたが、黄色いハイライトを入れたところが、かなり肝だと自分なりに感じたポイントだったようです。
今見返しても、よくやった…と思われる項目ばかりです。
このうち、「収支計画」というのが1番手間取りました。
そもそも、原価計算って原材料費の単価も知らなければ、どこで調達するかの知見もないのにどうやって作るんか?
この疑問を解決する方法は一つだけです。
『これから醸造場を作ります。全くの初心者なので、単価や原材料の考え方を教えてください』
まさに直球の質問メールを、師匠から聞いた商社や、ネット検索で調べた会社に送りました。
そして、まさにクラフトビール業界に入ってよかったなと思ったのが、どんな会社もとても前向きに親切に教えてくれたことでした。
現在、お取引をさせてもらっている基本の会社は、こちらです。
- 株式会社BET 基本の原材料となる麦芽とホップはほとんどこちらで購入しています。
ブリュワー向けのセミナーもたくさん開催してくれる会社です。このセミナーに参加することで、ブリュワーとお知り合いになれたりします。 - 大西商事株式会社 BETさんでは扱ってないホップ、麦芽、酵母を購入します。
クラフトビールの原材料取り扱いにおける最大手だと思います。必要な材料はほとんど揃います。 - セティ株式会社 世界規模にビール産業を支えるLallemand社の醸造用原材料部門における日本の代理店です。酵母にこだわりたい時に、お願いしています。
大西商事さんと一緒に、酵母のセミナーを開催してくれます。勉強になる!
これらの会社からいただいたビール作りに必要な原材料の単価から、醸造するために必要な量を計算して1リットルあたりの原材料費を計算しました。
ざっくりと、ですよ。
そして年間で何回醸造するのか、醸造ごとのタンクのローテーションを計画し、発泡酒免許に必要な「年間製造量6000リットル」に見合う材料費の総合計を算出しました。
ざっくりと、ですよ。
その上で、一体、他のブリュワリーは一杯おいくらでお店で販売されているのか、味の研究も兼ねて、近隣のブリューパブへ足を運んでみたりしました。
今考えれば、「そこからですか?」な足取りですが、クラフトビールが好きで堪らないから醸造を始めたわけではなく、クラフトビールって?という状態から始めたので、全てが白紙状態だったのです。
映画のプロデューサーとして作品を企画する際に、投下予算に対してどのぐらいの興収を得れば製作費が回収できるのか、A案からC案、場合によってはD案ぐらいまでを想定して予算を組みます。
やってみなければわからない世界ではあるので、案と言っても「夢のA案」=儲かる!、「堅いB案」=トントン、「最悪のC案」=リスクを覚悟、ぐらいは必要です。
企画提案における興行シミュレーションを作ってみることによって、どのターゲットに刺さらないといけないのかが目視できる状態になります。
ブリュワリーを作るときも同じだな、と思いました。
お酒の免許をいただくにあたり、なぜこんなに書類仕事が必要なのか?
それは、どのぐらいのビールを、どのぐらいの費用をかけて作って、どこに供給するのか、そして狙ったところにお客様はいるのか、そうしたことを最初に目視しなさいということを求めていたのだな、と収支計画を立てた時に感じました。
さっくりと、ですけどね。
今見返して、「同じ計算をしなさいな」と言われてもとてもできません。
「夢のA案」に満ちてますから。
でも、良いんです。
ビールを作ることができている、そこが最高に幸せです。
ー続くー